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原田

こんばんは。

先日YAICHI ISHIKAWAとの対談にて話題に挙がった「スーパーモンキー大冒険」。

エミュのゲーム自体はすでに入手済みでありましたが
NSFで全曲聴いてみたいのでしばし検索。
ニンテンドーサウンドフォーマットで無事入手しました。

正式タイトルは「元祖西遊記スーパーモンキー大冒険」でした。
「元祖西遊記」の部分が重要だったんですね。開始文字はGだったのか。

オープニング曲も良いですがやはりスタート後に流れるこのメインテーマですね。
意味不明なイントロからは想像もつかない壮大さ。
名曲です。

この曲を聴くために当時定価4,900円を払ったと思えば決して無駄ではないでしょう。
無駄かもしれませんが。

メインテーマの聴きどころはベース担当だった擬似三角波が
Bメロにて突如高音のミニマルに変化するあたりでしょうか。

FC音源の中でも擬似三角波の高音が好きだという方は多いと思います。

ほとんどの場合メロディには矩形波が選択されており
三角波はベース担当の音色であるため
この音色が主のメロディをとる曲は全FCゲームにおいて絶対数が少なく
そのため印象に残りやすい音色であると言えます。

ここでFC実機に内蔵された音源のみですが簡単に説明しておきたいと思います。


FCには5つの発音装置がついていると考えます。

・矩形波(duty比12.5%,25%(75%),50%の計3種選択可)
・矩形波(同上)
・三角波
・ノイズ(ホワイトノイズ、短周期ノイズ。計2種)
・デルタPCM(サンプリング音)

ちなみに矩形波は鋭い音、三角波は丸い音が出ます。

ふたつの違いはパイプオルガンで言うリード管とフルー管、
もしくはアコーディオンのチャンバー無しと有りのような感じでしょうか。

ノイズは金属的な音が出ます。
デルタPCMはサンプリング音が使用できるといっても
ビットレートが低く容量も食うので短い打撃音向きです。

基本的に上記の3音がメロディ、和音の中心になり
ノイズとPCMはシンバル、バスドラとしてリズムセクションを担当していたようです。

そう考えると矩形波がメロディ、三角波がベースとなった場合
残り矩形波の1音で和音を表現しなければならず
おのずとアルペジオ化した動きが必要になってきます。

ファミコン音楽が絶えず細かく動き回っているように聞こえるのは
その制限のせいなんですね。

例えばソロピアノで派手に魅せるには
あたかも手が3本あるかのように思わせなければなりません。

同じようにあらゆるFC作曲家たちが様々な方法でその制限に立ち向かい
メロディパートのスキマに別のパートを埋め込み、擬似ディレイ、擬似リバーブ等
多くの色んな手法を生み出してきました。


しかし椙山浩一大先生はその制限に対位法で真正面から立ち向かっています。

※ここからすぎやまこういち大先生を崇拝するだけの話になるので
 興味のない方は以下読まなくてよいですからね。



先生は同時に3音出せれば音楽は成立するということを
完璧なかたちで我々に示してくれているんですね。

「城」の曲など、よく色んなクラシック曲のパク…メタファだと言われていますが
3音で迫力を持った音楽として組み立てるには
知識と明確な完成イメージを描けていなければ不可能なのです。
クラシックの再現でもなくクラシックっぽいわけでもない。
クラシックそのものを作るには知識が必要なのですね。

先生は膨大な知識を活用する上で、あるスタンスに基づいて行動しています。
それは発音数に制限があるⅠ~Ⅳの間、ずっと一貫しています。

まず曲ひとつひとつにきちんと楽器編成がイメージされており
人間が物理的に存在する楽器で演奏できるように作られている。
そして音楽だけがしゃしゃり出ず
曲がDQ世界のひとつのパーツであることを守っている。

前者は純粋に音楽作品を作っているということ。
後者は純粋にDQ製作スタッフの一人だということです。
つまり先生はプロフェッショナルだということですね。

で、楽器編成に関してですが
FC音源の曲をオーケストラ版のアルバムで聞いても
何の違和感なく聴くことができることから
作曲の段階で楽器編成はかなりの段階までイメージされていると思われます。
わかりやすいものでⅢのラーミアの曲などは
ハープとフルートのデュオであることがFCの音源だけでも十分に理解できると思います。

元々音色が実際の楽器に近いわかりやすい曲もありますが
音色からは判別しにくいものもあります。

椙山浩一大先生が実際の楽器に近づこうと努力を続けた痕跡があるのが
Ⅱから登場する「ほこら」の曲です。

教会音楽やバッハを意識したと思われる「ほこら」の曲は
Ⅱ~Ⅳにかけて曲の方向性は同じまま、音色だけが変化していきます。
おそらく先生の脳内ではパイプオルガンの「ほこら」が流れていたのでしょう。
「城」の曲などもバッハ的ですがパイプオルガンを意識しているようには思えません。
どちらかといえばオーケストラですね。

まずⅡの「ほこら」ですが矩形波のみの2音で作られています。
曲の作りから容易にパイプオルガンを連想することができるでしょう。

Ⅲの「ほこら」は弦楽のように感じるかもしれませんが
これはトレムラントと呼ばれる、風室から規則的に空気を抜き
オルガンに「ビブラート」をかける機構を再現しようとしています。

メロディはフルー管を意識した三角波
和音はビブラートのかかったリード管を意識した矩形波という
パイプオルガンへの異常なまでのこだわりが伝わってきます。

そしてⅣの「ほこら」。
Ⅱと音色的に大差ないように思えますが
若干全体にモヤがかかっている印象があります。

Ⅱにはうっすらとビブラートがかかっているのですがそれすらもありません。
しかしこのノンビブラート感がより素のパイプオルガンを彷彿とさせます。

実際パイプオルガンという楽器は
自分の意思でビブラートがかけられない楽器なのです。
自分の個人的な感情を乗せて演奏することができないがゆえに
音色に神々しさが宿ったとも言えます。

先生がそこまで考えていたかは別として
パイプオルガンのスペックの違いをリアルを追求していたことは明白です。

上記に「モヤがかかっている」と書きましたが
Ⅳの特筆するべき部分はまさにそこなんです。

なんとⅣの「ほこら」には曲全体にホワイトノイズが使用されているのです。
基本的にノイズはシンバルや爆発音に使用され
曲中に長周期のノイズが使用されることはまずありません。

例外的に「MOTHER」の「工場」の曲中で
騒音のイメージとして使われていますが「ほこら」に騒音は関係がありませんね。

また「妖怪道中記」の幽海の場合では
海に飛び込むバシャーンという雰囲気を演出するために使用されていると思われます。

先生はリアルな楽器を人間が演奏しているというスタンスを追及していましたから
幻想的な雰囲気を醸し出すためだけにこの効果を使ったとは到底考えられません。

実はウィキペディア「ファミリーコンピュータ」音源のノイズ項目にこんな文章があります。


『ドラゴンクエストIV』ではパイプオルガンの送風ノイズを再現する使われ方もされた。


確かに曲中のノイズはただ伸ばしているだけでなく
オルガンの音の切れ目に合わせて入れ直されています。

実際のパイプオルガンも近くで聴くとシューッという空気音が音色に混ざってきます。

特にストッパーが地味な音色に設定されていた場合送風ノイズがよくわかります。

音を出すとバルブが開き大量の風がパイプを通過するので当然なのですが
離れて聴くとオルガンの音量と建物の反響音でかき消されてしまいます。

楽器の特性を表現するためにノイズを使用したのならば
まさしく先生の考えは一貫していたということになります。

こんなことを普通にゲームをプレイしているユーザーが知っているハズもなく
また知っていたとしても気付くハズがない。

何故先生はオルガンにここまでこだわったのだろうかという疑問が沸いてきますよね。

本来パイプオルガンの構造など知らない人間がほとんどですし
リード管とフルー管をそれぞれ単体で聴くと
「これ本当にパイプオルガンなの?」
と思う人は多いでしょう。

人々のイメージの中のパイプオルガンは
派手な音色のストッパーで奏でられる
「トッカータとフーガニ短調」を連想するような音色ではないでしょうか。

しかし先生がその方向へ行かなかった理由は
楽曲が使用される場所が「教会」ではなく「ほこら」だったからです。

先生は巨大な大聖堂に設置されたパイプオルガンではなく
街から離れた小さな修道院にある小さなオルガンを目指していたのではないでしょうか。

Ⅱでは音色に追求の痕跡はないですが
3音使用できるはずのところを2音に抑えています。

対して教会の「いきかえらせる」テーマは3音フルで使っています。
やはりⅡの時点で「教会」と「ほこら」を区別していたのだと考えられます。

Ⅲ、Ⅳでは3音になりますが
カウンターメロディの対位法的な動きを極力抑えていますね。

限られたストッパーで地味な音しか出せず
音が反響するほどの広さもない部屋で
静かに演奏されるスペックの低いパイプオルガンのイメージが
先生の「ほこら」の曲だと思うのです。

逆に言えば
先生は「ほこら」でオーケストラやフルスペックのパイプオルガンを
連想させないため、ここまでオルガンの再現にこだわったのかもしれません。
そしてその思惑は成功しています。

何故ならウィキペディアの
「『ドラゴンクエストIV』ではパイプオルガンの送風ノイズを再現する使われ方もされた。」
というくだりを読んだ多くの人がⅣのどの曲のことかわからずに質問しているのです。

結果、
パイプオルガン=教会=「おいのりをするorいきかえらせる」の曲
だと解釈したがどこにノイズがあるかわからなかった。(実際教会の曲にノイズは入っていない)
という間違った結論に達しています。

つまり「ほこら」の音色は人々が抱いているパイプオルガンではなかった
という意味で先生の思惑は成功しているのです。


FCの作曲家においてここまで固有楽器をイメージして曲を作っている作曲家はいるでしょうか。
クラシックという音楽が楽器を指定する音楽だと言ってしまえば
先生はそのジャンルの曲を正しく作っていただけに過ぎませんが。

こういう観点からFFの音楽を聴いてみると
意図が「根拠のない雰囲気」で終わっている気がするのです。

ただそれが悪いわけではなく
FF3のフィールドの曲なんかはまさにこれこそファンタジーという印象ですが
「ファンタジーって何?」
と聞かれて作曲者やユーザーは何と答えるのでしょうか。

「この曲を聴いてこういう風景が浮かびました。」
「そうですね。はaい。」

で終わるのはとても悲しい事件です。

ですが「雰囲気」というものは一番直感的に楽しめる部分でもあります。
そしてそれはそのままで良いとも思うのです。

では椙山浩一大先生の追求していたものは何なのか。

それは芸術家としてのレベルと職人としてのレベルの一致かもしれません。

先生は芸術家レベル45の曲を書いたとしたら
職人レベルも45のクオリティに仕上げようとしていた。

要するに椙山浩一大先生は神だったということですね。


とここまで書いたところで
「スーパーモンキー大冒険」の音楽を聴きなおすとやっぱりこれもいいんですよね。

クオリティだけではなく何か目的を持って作られた音楽というものはどれも尊いと実感しました。

さようなら。働きます。

原田_b0160312_0173443.jpg

by kaurismaki-0721 | 2011-10-12 01:53

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